蜜柑は緑

甘かろう
酸っぱかろうや
甘かろう
路地の初もの
初の路地もの

（『九月のため息』（出版未定））

帰途は黒

帰り道
そぼ降る雨に
逆らえず
うながさるまま
ほろ酔いのまま

（『九月の再会』（出版未定））

入口は白

出るときも
入るときにも
行ったり来たり
黒い靴
玄関で待つ

（『九月のため息』（出版未定））

宵口は桃

夏は宵
恨めしいのは
この熱気
あたしと君との
何気ない距離

（『メス犬のひとりごと』（出版未定））

疲労は黒

深い底に漂う疲労を眠る
滝に舞い散る飛沫を浴びて

（『陸奥も』（出版未定））

稲穂は金

軒の間を
くぐり出れば
徐に
寄せる土地の名
金の細波

（『陸奥も』（出版未定））

道行は灰

どの道も同じなり
みな
陸奥も
始まりを持ち
終わりを嘆くは

（『陸奥も』（出版未定））

海鼠は青

世も知らず
十三の夏の
遊び場は
甘い初恋
呼び起こしたり

（『セニョール・ホニの涙』（出版未定））

曲線は緑

曲線の中で息を吸い直線の日常を想う
余裕無き直線
余白の曲線

（『北軽井沢へ』（出版未定））

空気は水

「きたかる」の
澄んだ空気は冷ややかで
朝の散歩に犬もはしゃいで

（『北軽井沢へ』（出版未定））

浅間は白

ハンドルの
右や左に飽きた頃
逃げ水の先に
浅間の峰の背

（『北軽井沢へ』（出版未定））

名残は飴

止まることは
ひとつもなし
せめて前に進むなら
酒酌み交わし
名残を惜しまん

（『下北の夜』（出版未定））