2012年6月9日土曜日

祈りは透明と鳴声で

実家は海岸と山に挟まれたわずかな土地にある。
山の斜面はみかん畑で、段々だ。


その実家から波止場に出て振り返って山を見上げた一角にうちの集落の墓場がある。
実家に帰るとかならず一度は墓参りをする。
今回の帰省でも東京に戻る直前に墓参した。

あれはもう40年近くも前になるか…
うちの実家の周辺はほぼ皆、みかん農家で、うちも例に漏れず、当時は専業だった。
都会の鍵っ子のような訳にもいかず、昼間はよく近所のトシばあちゃんの家に預けられた。
年寄りが家を守っている家庭が近所にあると、よくそこに預けられた。
年寄りと言っても当時、まだトシばあちゃんは50くらいだったろうな。
預けられる、といってもみかんの収穫期になるとほぼ丸一日トシばあちゃんと過ごすこともあった。
40年前のおぼろげな記憶の中に、トシばあちゃんが鮮明に映っている心の写真が何枚かある。

数週間前、そのトシばあちゃんが亡くなった。
あれほどお世話になったにも関わらず、忙しさを理由に今回の帰省まで手を合わせに行くことができなかった。
近所のおばあちゃんだったのだが、家族同様の熱を持った共通の思い出がある。。。これが田舎という空間だ。

墓場まで山を登って行き、まず実家の墓を見た。
トシばあちゃんの墓はうちの墓のとなりにある。
それから、トシばあちゃんの入っている墓を見た。
とそのとき、右手のみかん原の方から濃い緑色の手のひらほどの鳥が、すうっと近くの木の枝のところまで飛んできて止まった。
そして僕の拝んでいる横で、キューキューと高くも低くもない声で鳴き始めた。
僕が手を合わせて墓に向かっている間、キューキューキューキューと鳴き続けた。

何を考えるともなく、
「あぁ、トシばあちゃんが会いに来てくれたな」
と心が感じた。

キューキューキューキュー…
キューキューキューキュー…

僕が両手を外して、その鳥の方を向いてからもしばらくの間、そう鳴き続けた。
色々な思い出と潤んだ目で、山の斜面から海を見下ろしたとき、その緑色の鳥は、傍らから海の方へ向かって飛んで行った。
もう鳴くのは止めていた。


あぁ、トシばあちゃんが会いにきたのだ、と改めて鳥の行方を目で追った。
トシばあちゃんに会えて本当によかったなぁ。